前回は「全国人口移動から読み解く」といった全国規模→都道府県→広島県という流れで解説をさせていただきました。
人口移動を読み解く意味は全体の傾向を掴むという事もありますが、人口移動は自然増減(出生・死亡)よりも短期変化するという特徴もあるので、政策を考えるためにも大切な事だと思っています。
前回のおさらい
・国内移動をする人口の数は横ばい(ちょっと縮小)
・移動している人は東京圏を筆頭に大都市圏に移動
・移動している人たちの主な年齢は20~30代程
・主な理由は新規就職や転職など
・広島県においても同様
という内容でした。
本記事では東広島市 人口動態 若者流出・就職事情などのキーワードで検索される疑問に答えます。
前回の記事を読まれる方は以下からお願いします。

【用語集】
社会増減:転入と転出の差による人口増減
自然増減:出生数と死亡数の差による人口増減
東広島市を取り巻く広島県全体の人口移動-自然増減と社会増減の現状
「令和5年広島県人口移動統計調査報告」によれば、広島県は年間で 1,784 人の社会減少(入ってくる人の数よりも、出ていく人の数が多い状態)となっています。
内訳:転入者数 122,043 人、転出者数 123,827 人
広島県の人口全体が増えているのか、減っているのかの話でいうと、社会増減(転入・転出)に加えて出生数や死亡数を含めた自然増減も足し合わせる必要があります。
広島県は生まれる人数よりも亡くなる人数が多いので自然減少状態。
年間の自然減少は18,472 人(出生者数 17,427 人、死亡者数35,899人)ですので、-1,784人と-18,472人を足し合わせると広島県の人口は1年間で20,256人減少したという事になります。

自然減が年々拡大していることが分かります。さらに身が引き締まりますね。
「令和5年広島県人口移動統計調査報告」にある下記の表をみても、自然増加している自治体は海田町だけです。
東広島市含め、その他の県内自治体は出生数より死亡数の方が上回っている状況です。(自然減少)
★令和5年に人口増加した自治体は黄色のマーカー部分の、海田町と東広島市と熊野町の3か所。

人口全体のことはまた別の機会で書かせて頂こうと思いますが、出生率が抜本的に向上&継続的に上がらない限り「移動人口が多い若者」の取り合いになり、自治体格差や企業の競争格差などが開いていきます。
私個人の考えとしては、人口増加を目的とするのではなく、人口減少でも成り立つ・成長できる基盤を作ることを1つの目的としています。その過程や結果として人口の増加があるかどうかという位置づけです。
ですので、人口規模に頼っていた経済・社会基盤からの転換を重要課題としています。
話を戻しまして、
県全体は人口減少傾向の中でも、大学・研究機関やマイクロン社がある東広島市の人口は微増しています。
ではわが街東広島市は数年でどのような人口推移になっているのでしょうか。
東広島市の人口は10年スパンで約19万人へ微増
まずは人口が微増している東広島市の総人口推移から見ていきたいと思います。

東広島市の全体人口は単年度だけ微増しているのではなく、10年スパンで見ても横ばい&微増です。
次に、東広島市の微増の背景を探りたいと思います。
目線としては
・社会増減によるものなのか、
・自然増減によるものなのかを見たいと思います。

グラフを見てお分かりの通り、東広島市もH29年から自然増減がマイナス転換しています。
ということは人口増は出生によるものよりも、他市からの転入(社会増)によるものが軸ということになります。
軸という表現にしているのは、他市から東広島市へ移住された方が赤ちゃんを出産する場合もあるので、転入だけが人口増の要因ではないということになります。
ちなみに、以下の東広島市の住民台帳による人口をグラフで見ると、人口が横ばいまたは微増を維持できているのは、外国人人口が増えているためだと分かります。


東広島市の人口増減は、主に人の移動による影響が大きいです。
そこで次に、国籍を問わず、どの地域からの流入が多いのかを見ていきましょう。まずは県内・県外の傾向から確認します。


グラフを見てみると、県外の流出入は比較的マイナス=市外に出ていく人のほうが多く、県内から入ってくる人数はプラス傾向なのが分かります。
では実際にどの地域からの流入が多く、どこに流出するのか県内規模でみていきます。
以下のグラフは流出入の人数を地区別に表したものです。

5年間の傾向を見てみると、転出先は広島県で一番の都市である広島市が多く、転入先は呉市や三原市、竹原市という傾向です。
次に東広島市にどのような理由で出入りしているのか、という傾向を見ていきたいと思います。

東広島市の4大学(広島大学、近畿大学工学部、広島国際大学、エリザベト音楽大学)や各高校等により、入学・転校が多いですが、就職で出ていっていることが分かります。
住宅事情というのは、家賃・狭さ・老朽化・購入・売却などが関係。
呉市や竹原市在住の方が新築を建てる際、土地代の比較やアクセス・環境などを踏まえ東広島市で建てたり、引っ越しされたりということが推測されます。
※主因者に伴う者=一緒に住所を移した家族など。
ここまでの整理として、
広島県においても東広島市においても、どうすれば就職や居住地として選んでもらえるのか、が課題の1つとなります。
そのためにまずは、流出理由に多い「就職」について一段掘り下げてみます。
参考資料は前回の後半で使用した資料、広島県がR6年10月に出している「若年層の社会減少要因調査分析について」をもとに開設させていただきます。
若年層流出の要因分析
改めてですがこの調査は、広島県転出超過の8割を占める18〜39 歳を対象に、進学・就職・UIターンの3フェーズで「どの価値観の若者が、いつ・なぜ県外へ流れるか」を可視化し、クラスター別に対策の優先順位を整理した調査です。
【調査に使用したアンケート対象について】
「学生・若手社会人側」と「企業側」の両方から“なぜ県外に流れるか”を立体的に把握するため、
・Webモニター(一般の個人) 16,480人
・協力企業の従業員 3,148人
・同窓会・県人会会員 160人
・企業の採用担当者 385人
という4つの母集団に分けてアンケートを取られています。
※高卒就職は全体の4分の1に留まるため、対象外としているとのこと。
まず前提として、他地域に流出するピーク時期は大体3回
①大学進学期
②新卒就職期(一番影響が大きい)
③20代後半から40代までのUIターン時期
→49歳以降はUIターンがおおむね収束。

②の就職段階では、回答の傾向から大きく以下の2分類に分かれます。
1.就職先重視:やりたい仕事→住む場所
2.居住地重視:暮らしたい環境→仕事を探す
の2分類。
イメージしやすいよう、図を添付します。
(細かくすると、さらにそれぞれが分かれていくとのことです)

資料を見てみると合計20,100人中、
・就職先重視型(仕事起点)は6,094人
・居住地重視型(暮らし起点)が14,006人
約7割の方が居住地重視というのが分かります。
そして最終的に地域に残った割合を表す「定着率」が高いのは居住地重視型。
※「脱落」というのは広島県ではない他の県を選択したということだそうです。
大分類 | 母数 | 県外流出 | 県内定着 | 県内定着率 |
---|---|---|---|---|
就職先重視型 | 6,094 人 | 3,793 人 | 2,301 人 | 約38% |
居住地重視型 | 14,006 人 | 4,503 人 | 9,503 人 | 約68% |
この居住重視型というのは、
まず暮らしたい環境(遊び・安心・挑戦環境)がある場所を重要視しており、そのあとに条件を満たす仕事を探す傾向という事になります。就職重視型は考える順番が反対。
以下、広島県の資料を基に就職重視と居住地重視それぞれについて早見表を作成してみました。
大きく分けると2分類ですが、細かく分けると全部で8分類となります。
大分類 | 小分類 | 構成比* | キーワード | 例)県外選択理由 | 県内定着率 |
---|---|---|---|---|---|
就職重視 (約30 %) | A 成長志向 | 15.1 % | グローバル・大企業・自己成長 | 県内 BtoB 企業を認知せず序盤離脱 | 32.6 % |
B 業務・適性重視 | 6.6 % | 好きな分野・研究内容 | 仕事内容情報が浅く魅力を感じにくい | 39.6 % | |
C 安定・WLB 重視 | 6.2 % | 福利厚生・転勤なし・快適職場 | 終盤の職場設備比較で都市に流出 | 46 % | |
D こだわり薄い | 2.3 % | 特筆なし | 母数小で傾向不明 | – % | |
居住地重視 (約70 %) | E アクティブ志向 | 25.8 % | 文化・スポーツ・遊び場 | 「遊ぶ所が少ない」と感じて序盤/終盤離脱 | 66.6 % |
F 全方位こだわり型 | 21.1 % | 挑戦機会+多様性+遊び+愛着全部 | もっと面白い舞台を求め都市へ流出 | 68.9 % | |
G 安定・ゆとり重視 | 17.9 % | 医療・買物・子育て・転勤なし | 「徒歩圏で完結しない」生活核不足で離脱 | 70.3 % | |
H こだわり薄い | 4.8 % | 特筆なし | 少数・傾向薄 | – % |
( * = 全体 20,100人に占める構成比)
※定着率というのはタイプ別ごとに県内(広島県)に最終的に残った人の割合
細かく書くととんでもないボリュームになるので、
若年層の流出要因についてはここらでまとめたいと思います。
就職重視型の若者が県外を選ぶ理由
県内企業の認知度不足、福利厚生・職場環境における都市圏企業との比較離脱が原因。
- 就職重視型の考え
- 居住地に強い不満があるというより、就職先優先で序盤から県外企業を選択
→東広島市のマイクロン社含め、比較的大きい会社をそもそも知らない方が多い。 - 福利厚生や職場環境の比較で県外企業を選択
→会社説明会や合同説明会で直接比較し、都市部の新しい職場環境に流れる。 - 流出先は都市圏(東京・大阪・福岡等)が中心
- 最も人気の就職先は製造メーカー
→県外就職者の第一志望業種はメーカー(素材・化学・食品等)が最多。
- 居住地に強い不満があるというより、就職先優先で序盤から県外企業を選択
【就職重視型に向けた課題】
・企業の認知度向上
・福利厚生の充実
・職場環境の快適さ(綺麗で快適など)
・ワークライフバランスが保てるよう生産効率向上
まず企業側としてやりやすいのは認知度向上からでしょうか。
待遇面については業績や今後の見通しなどに左右されると思うので、何とも言えず。
居住地重視型(生活環境志向)
居住地重視型は、居住環境やライフスタイルを重要視する層。生活体験が合えば残りやすいが、都市機能が弱いと流出。
特に重視される要素としては次のような点があります。
- 居住地重視型の考え
- 生活環境の利便性・快適性
- 商業施設、医療機関、交通の利便性などの整備度合い
- 子育て支援、教育環境の充実度
- 余暇・文化的な魅力
- 自然環境の豊かさ、アウトドア・レジャー施設の充実
- イベントや文化的活動へのアクセス(芸術、スポーツ観戦など)
まとめ|統計が示す論点
今回の統計分析から、東広島市の人口維持は 外国人人口の純増と若年層の転入超過 に支えられている一方、出生数の減少による自然減が拡大傾向ということを提示させて頂きました。また、若者の流出理由には就職先と生活環境の二つの軸があることも確認できました。
その他、広島県の調査から、若者が暮らす場所を決める際に特に重視する要素として、以下のような項目が挙げられています。
- 精神的なゆとりが持てる
- 子育てに適した環境
- 教育水準の高さ
- 医療体制の充実
- 自然環境の豊かさ
- アウトドアを楽しむ場
こうした項目を見ると、東広島をはじめとする地方都市や周辺地域こそ、その強みを十分に発揮できる可能性があると考えます。
一方で、「遊ぶ場所やレジャー施設が不足している」という声が挙がっていることも現実です。
これは、広島が本来持っている自然や環境の魅力をまだ十分に活かしきれていない証拠ともいえるでしょう。
私は、地方だからこその「可能性のヒント」は、
引用すると次の4つの要素だと考えています。
- 精神的なゆとりが持てる
- 子育てに適した環境
- 自然環境の豊かさ
- アウトドアを楽しむ場
まずは「東広島に一時滞在してみたい」と思えるようなきっかけづくりからスタート。
小さなことでも「行ってみたい」と思える目的地が地域に用意されているかを再確認し、本当に東広島の自然や環境を最大限に活かした魅力を提供できているのか、しっかりと考えていきます。
人口減少や若者流出という課題を一気に解決することは難しいですが、段階的にできることから具体的に取り組みを進めていくことで、東広島をより魅力ある、選ばれる地域へと変えていけると信じています。